建設工事の現場で日々排出される産業廃棄物ですが、その運搬には許可が必要なケースがある事をご存知でしょうか?
皆さんが現場で運んでいる行為はもしかすると法律違反かもしれません。
本記事では、産業廃棄物の運搬に関わる重要な許可制度である、産業廃棄物収集運搬業許可について詳しく紹介します。
本記事のポイント
・他人の産廃を運搬する場合は許可が必要
・下請業者が現場の産廃を運ぶ場合に必須
・無許可営業は元請と下請の両方に罰則有
産業廃棄物収集運搬業許可とは?
産業廃棄物収集運搬業許可とは、他人から依頼を受けて産業廃棄物を運搬する場合に必要な許可になります。
この許可を持たずに、他人の産業廃棄物の運搬を行った場合、5年以下の懲役、もしくは1,000万円以下の罰金、又はその両方が科せられます。
またこの罰則は、運搬を行った無許可事業者だけでなく、その業者に運搬を依頼した事業者も対象になる厳しい規定です。
産業廃棄物処理業の許可制度について
産業廃棄物は、事業活動に伴い排出される廃棄物の事を指しますが、その処理責任は原則、排出した事業者にあります。
その為、事業者は自らの責任で産業廃棄物を適切に処分(人や環境に影響が出ないようルールに従って処理)する事が義務付けられます。
ただし、産業廃棄物の処分を法令を遵守して遂行するには、適切な施設や設備、ノウハウが必要です。その為、産業廃棄物の処分を排出事業者のみに負担させるのは、不法投棄などが起きるリスクがあります。
そこで、他人が排出した産業廃棄物を運搬・処分する事を認める許可制度を設ける事で、許可業者へ産業廃棄物の処理を委託出来る仕組みにしたのがこの許可制度の背景となります。
産業廃棄物の処理業に必要な許可
産業廃棄物の処理業は「運ぶ」仕事と「処分する」仕事でそれぞれ必要な許可が異なります。
どちらも行う場合は両方の許可が必要です。
なお、上記でも説明した通り、産業廃棄物を排出した事業者が自ら廃棄物を運んだり、処分したりする場合は、これらの許可無しに行っても法律違反(無許可営業)にはなりません(ただし法律のルールに従って正しく運搬や処分をしなかった場合は、当然ですが廃棄物処理法違反となります)。
建設業者が必ず抑えるべきポイント
建設工事の現場では、多種多様な産業廃棄物が大量に排出されるため、排出事業者の処理責任は非常に大きいものになります。
ここからは知らないと法律違反になってしまう、必ず抑えておきたいポイントをご紹介していきます。
1.元請業者が廃棄物の排出事業者となる
建設工事の現場で排出される産業廃棄物は、工事を発注者から直接請け負った元請業者が排出事業者となります。
つまり、現場で出る廃棄物の処理責任は元請業者が負うという事です。
2.下請け業者の廃棄物運搬は許可が必要
現場で出る廃棄物は元請業者に処理責任がある為、簡単に言うと現場のゴミは元請業者のモノになります。
つまり、現場に入っている下請け業者が、現場で出た産業廃棄物を運搬する場合は、他人の産業廃棄物を運搬するわけですから、産業廃棄物収集運搬業許可が必要となります。
※規模の小さい工事で特定の条件を満たせば下請け業者でも許可が不要なケースがあります
以下の具体例のうち、許可が必要なケースを考えてみます。
S社が下請け業者、M社が元請業者とします
①S社がA現場で出た産廃をB現場に運ぶ
②S社がA現場で出た産廃を処分場に運ぶ
③M社がA現場で出た産廃を処分場に運ぶ
④S社がA現場で出た産廃をM社支店に運ぶ
⑤S社がA現場で出た産廃をM社の保管場に運ぶ
③を除く全てのケースで、S社は産業廃棄物収集運搬業許可が必要です(③はS社もM社も許可不要)。
3.無許可営業は元請も罰則対象
下請け業者が、無許可で現場の産廃を運搬した場合、下請け業者と元請業者の双方が以下の罰則対象になります。
「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、又はその両方」
4.元請業者は処理業者と契約締結が義務
元請業者が産業廃棄物の運搬や処分を委託する場合、委託先の下請け業者や処分場と、それぞれ個別に委託契約を締結する義務があります。
なお、中間処理を挟む場合(産廃が、現場⇒中間処理業者⇒最終処分業者という流れで動く場合)は、元請業者は中間処理業者とのみ契約を締結すれば良く、最終処分業者と契約締結は不要です。
※中間処理業者が最終処分業者と契約を締結する事になります
5.再委託は原則禁止
排出事業者(元請)から産廃の運搬や処分を委託された場合、さらに他の業者や二次下請けに再委託する事は原則禁止されています。
ただし、やむを得ない事情があり、排出事業者からの承諾を得ている場合にのみ再委託は認められます。
なお、二次下請け以降の業者が産業廃棄物を運搬する場合は、元請業者と二次下請け以降の業者が直接契約を締結し、一次下請けは契約に関与しません。
1~5をまとめると
以上の抑えるべきポイント1~5をまとめると以下のようになります。
この図は建設工事における産業廃棄物処理の基本的な考え方になります。
産業廃棄物収集運搬業許可の取るには
ここからは簡単に産業廃棄物収集運搬業許可の取る為の流れを紹介していきます。
許可の要件を満たしているか確認
許可は申請すれば誰でも取れるわけではなく、許可の要件を満たす必要があります。
以下が許可の要件となりこれらを全て満たせば許可は必ず取る事が出来ます。
①収集運搬の用に供する施設
②講習会の受講
③経理的基礎
④欠格要件
①収集運搬の用に供する施設
産業廃棄物を運搬するのに適した運搬車や運搬容器を所有している事が必要です。
②講習会の受講
公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センターなどが開催する産業廃棄物の収集・運搬に関する講習会を、事業者の代表者が受講する必要があります。
③経理的基礎
少なくとも債務超過の状態でなく、かつ持続的な経営の見込み又は経営の改善の見込みがある事が求められます。
④欠格要件
会社役員や個人事業主本人などが、欠格要件に該当していない事が求められます。
欠格要件はいくつかあり、例えば「暴力団関係者である」「直近5年で禁固刑や罰金刑を受けた」などがあります。
必要な許可の種類を確認
自社が取るべき許可の種類を決める為に、予定している運搬実態について以下の点を確認します。
産廃をどこからどこへ運ぶのか?
運搬許可は、産廃を荷積みする自治体と荷下ろしする自治体の両方で許可を取らないといけません。
例えば大阪府の現場で積んだ産廃を、京都府の中間処理業者まで運ぶのであれば大阪府と京都の許可が必要になります。
積替えや保管を行うかどうか?
収集した産廃を自社の保管場所で保管したり、途中で別の運搬車両に積替えをする場合と、一度収集した産廃を保管や積替えをせずに処理場に直行するのでは、許可の種類と取得難易度が変わります。
特別管理廃棄物を運搬するかどうか?
産廃の中でも特に危険性・有害性の高い「特別管理産業廃棄物」を運搬する場合、必要な許可の種類や取得難易度が変わります。
これらを確認し、以下の中から自社が取るべき許可を決定します。
許可の種類 | 内容 |
---|---|
産業廃棄物収集運搬業 (積替え保管を含まない) | 産業廃棄物のみを運搬し、積替えや保管を実施しない |
産業廃棄物収集運搬業 (積替え保管を含む) | 産業廃棄物のみを運搬し、積替えや保管を実施する |
特別管理産業廃棄物収集運搬業 (積替え保管を含まない) | 産業廃棄物と特別管理産業廃棄物を運搬し、 積替えや保管を実施しない |
特別管理産業廃棄物収集運搬業 (積替え保管を含まむ) | 産業廃棄物と特別管理産業廃棄物を運搬し、 積替えや保管を実施する |
運搬する産廃の品目を確認
運搬業許可は、運搬する品目も申請しなければならず、申請していない品目は運搬する事が出来ません。
品目により求められる運搬施設などが異なる為です。
※産業廃棄物は全部で20品目あります
申請後に品目を追加する事も可能ですが、申請手数料が余計にかかってしまうので、出来るだけ1回の申請で運搬する可能性のある品目は全て申請するようにしましょう(申請する品目は何個でも手数料は変わりません)。
許可の申請
許可の種類と申請内容が決まれば、具体的な申請手続きに移ります。
なお、許可申請が受理されてから許可が下りるまでの期間を審査期間と呼び、この日数は自治体によって様々ですが、平均すると2ヶ月程度かかるケースが多いようです。
申請書類の作成
許可の申請は申請書類によって行います。
申請書類は各自治体のHPでダウンロードができます。
作成した申請書類を必要な添付書類を添えて、原則各自治体の窓口に持ち込んで申請をします。
※多くの自治体が原則持ち込みでの申請となっており、事前予約制としている自治体が多いです
申請先の窓口
許可の申請先は以下の通りです。
運搬範囲 | 申請先 |
---|---|
1つの政令市の範囲を超えて運搬する | 各都道府県 |
1つの政令市内でのみ運搬する | 該当する政令市 |
なお、「積替え保管を含む」許可を申請する場合は、当該積替え保管場所がある政令市の許可も必要です(保管場所が政令市ではない市町村であれば都道府県の許可のみでOK)。
また、先述の通り、荷積みと荷下ろしが異なる都道府県の場合は、両方の都道府県で許可を取る必要があります(通過するだけの都道府県がある場合、その都道府県の許可は不要です)。
許可の申請手数料
許可の申請には以下の手数料がかかります。
手数料の納付方法は自治体によって異なりますが申請時に現金納付のケースが多いようです。
種類 | 新規 | 更新 |
---|---|---|
産業廃棄物収集運搬業 | 81,000円 | 73,000円 |
特別管理産業廃棄物収集運搬業 | 81,000円 | 74,000円 |
許可取得後の義務及び注意点
許可取得後は、廃棄物処理法を遵守し、適切に産業廃棄物の収集運搬を行わなければなりません。
見落とされがちで注意が必要なのは、運搬車両への必要な表示義務や、帳簿の作成義務などです。
これらの義務を怠ると最悪の場合許可が取り消されてしまうので、必ず正しい知識を持って法令順守な運用を心がけましょう(心配な方は下記記事で詳しく解説していますので参考にして下さい)。
許可には有効期限があります
許可は取得後から5年間の有効期限があります。
期限後も引き続き許可を維持したい場合は、期限が切れる前に更新申請をする必要がありますので、許可業者は期限の管理を忘れずに行いましょう。
なお、期限が切れてからの更新は出来ませんので、もし更新を忘れた場合は新規で許可を取りなおす必要があり、手数料が高くなってしまう等のデメリットがあります。
更新をするには更新者向けの講習会の受講も必須になりますので、早め早めの準備をするようにしましょう。
産業廃棄物収集運搬業許可を取得するメリット
下請け業者として建設工事を受注したい場合、産業廃棄物収集運搬業許可を取得する事は元請事業へのアピールになります。
元請業者の立場からすると、運搬業許可を持っていない下請け業者に工事を発注した場合、現場で出る産廃の運搬を自社で行うか、運搬業者と運搬作業のための契約を別で交わす必要があります。
運搬業許可を持っている下請け業者に工事を発注すれば、産廃の運搬も一緒に委託出来ますので、わざわざ別の事業者と契約する手間も省けて元請としてメリットがあります。
専門工事の下請けが主な建設業者は、元請へのアピールとして運搬業許可を取得するメリットが大きいです。
まとめ
以上、ここまで産業廃棄物収集運搬業許可について紹介してきました。
下請け業者として工事を受注する建設業者であれば、運搬業許可を持っていなければ原則産廃を運搬する事ができません。
下請け業者も元請業者も正しい理解の元、法令を遵守した廃棄物の扱いを心がけましょう。
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産業廃棄物を運びたい場合
・産業廃棄物収集運搬業許可
・特別管理廃棄物収集運搬業許可
産業廃棄物を処分したい場合
・産業廃棄物処分業許可
・特別管理廃棄物処分業許可