建設工事では大量の種類と量の産業廃棄物が排出されます。
その中で、どれが産業廃棄物に該当するのか正しく判断する必要があります。
産業廃棄物はその処理方法が法律で厳格に定められている為、産業廃棄物と知らずに不適切な処分をすると法律違反になってしまいます。
本記事では建設工事における産業廃棄物について詳しく紹介していきます。
本記事のポイント
・産業廃棄物は事業活動で生じる廃棄物
・一般廃棄物とは処理責任の所在が違う
・建設工事では管理方法が法令で規定
目次
産業廃棄物の定義
最初に産業廃棄物の定義について確認しましょう。
産業廃棄物とは、次に掲げる廃棄物をいう。
廃棄物処理法第二条4項
一 事業活動に伴つて生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物
二 輸入された廃棄物
つまり産業廃棄物とは、事業活動によって排出される廃棄物であり、かつ法令で定められたものを指します。
産業廃棄物の全品目
産業廃棄物に該当する20品目を紹介します。
産業廃棄物は「あらゆる事業に伴うもの」が12品、「特定の事業活動に伴うもの」が7品指定されています。
なお、建設工事において排出される廃棄物「建設廃棄物※」に該当するものは黄色く色付けしています。
つまり、工事の現場ではこの黄色の品目について注意が必要になります。
※建設廃棄物は「建設廃棄物処理指針」により例示される品目
あらゆる事業活動に伴うもの
品目 | 具体例 |
---|---|
燃え殻 | 石炭がら、焼却炉の残灰、炉清掃残渣物、その他の焼却かす |
汚泥 | 排水処理後及び各種製造業生産工程で排出された泥状物、ビルピット汚泥、カーバイドかす、ペントナイト汚泥など |
廃油 | 鉱物性油、動植物性油、潤滑油、絶縁油、切削油、溶剤、など |
廃酸 | 廃硫酸、廃塩酸、各種の有機廃酸類など、全ての酸性廃液 |
廃アルカリ | 廃ソーダ液、金属せっけん液など、全てのアルカリ性廃液 |
廃プラスチック類 | 合成樹脂くず、合成繊維くず、固形状液状全ての合成高分子系化合物 |
ゴムくず | 天然ゴムくず |
金属くず | ハンダかす、鉄鋼、非鉄金属の研磨くず、切屑くずなど |
ガラスくず、コンクリートくず、陶磁器くず | ガラスくず、耐火レンガくず、タイル・陶磁器くずなど、石膏ボード、コンクリート製品の製造工程からのコンクリートくず |
鉱さい | 高炉、平炉、鋳物廃砂、ボタ、不良石灰、粉炭かすなど |
がれき類 | 工作物の除去に伴って生ずるコンクリートの破片、レンガの破片、アスファルトコンクリート製品、その他これに類する不要物 |
ばいじん | 大気汚染防止法に定めるばい煙発生施設又は産業廃棄物の焼却施設において発生するばいじんであって、集じん施設によって集められたもの |
特定の事業活動に伴うもの
品目 | 具体例 |
---|---|
紙くず | ①建設業に係るもの(工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたもの) ②パルプ製造業、紙製造業、紙加工品製造業、新聞業、出版業、製本業・印刷物加工業に係るもの |
木くず | ①建設業に係るもの(工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたもの) ②木材又は木製品製造業、家具製造業、パルプ製造業、輸入木材卸売業に係るもの |
繊維くず | ①建設業に係るもの(工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたもの) ②繊維工業(衣服、その他の繊維製品製造業を除く)に係るもの ③羊毛くず等の天然繊維くず |
動物性残さ | 食料品製造業、医薬品製造業、香料製造業から生ずるあめかす、醸造かす、発酵かす、魚・獣のあらなど |
動物系固形不要物 | と畜場でとさつ解体した獣畜、食鳥処理場で食鳥処理した食鳥に係る固形状不要物 |
動物のふん尿 | 畜産農業から排出される牛・馬・豚・めん羊・山羊・にわとりなどのふん尿 |
動物死体 | 畜産農業から排出される牛・馬・豚・めん羊・山羊・にわとりなどの死体 |
産業廃棄物を処分する為に処理したもの
上記の19品目を処分する為に必要となったもので、かつ19品目に該当しないものも、産業廃棄物として該当します。
この該当物が産業廃棄物の20品目になります。
該当事例は少ないですが、具体例としては汚泥やばいじんを固めたコンクリート固型化物などが該当します。
特別管理産業廃棄物について
産業廃棄物の中でも「爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物」は特別管理産業廃棄物 として、通常の産業廃棄物よりも厳しい処理基準が設けられています。
なお、先ほど同様、建設廃棄物に該当するものは黄色く色付けしています。
特別管理産業廃棄物の該当品目
品目 | 内容 |
---|---|
廃油 | 揮発油類、灯油類、軽油類(引火点70℃未満の燃焼しやすいもの) |
廃酸 | 著しい腐食性を有するもの(pH2.0以下のもの) |
廃アルカリ | 著しい腐食性を有するもの(pH12.5以上のもの) |
感染性産業廃棄物 | 医療機関、試験研究機関等から発生し、感染性病原体が含まれるもの、 もしくは付着し、又はそのおそれのあるもの |
廃水銀等 | 特定施設において生じた廃水銀又は廃水銀化合物 |
特定有害産業廃棄物 | PCBや石綿など、特に有害性の高い物質またはそれらを含むもの |
特別管理産業廃棄物管理責任者の設置義務
特別管理産業廃棄物を排出する事業所を設置している事業者は、当該事業場ごとに特別管理産業廃棄物管理責任者を設置する義務があります。
この特別管理産業廃棄物管理責任者は誰でもなれるわけではなく、該当品目に応じて資格要件が規定されており、廃棄物管理の実務経験や講習の受講などが要件とされます。
また自治体によっては、責任者の設置について報告書の提出が必要なケースもあります。
産業廃棄物と一般廃棄物の違いについて
一般廃棄物は廃棄物処理法の中で「産業廃棄物以外の廃棄物」と定義されています。
「事業活動に伴い排出される廃棄物」以外の廃棄物は、全て一般廃棄物という認識でOKです。
例えば一般家庭から出るゴミなどは一般廃棄物となります。
産業廃棄物と一般廃棄物は処理責任の所在が違う
一般廃棄物の処理責任は、原則、各市町村にあります。
その為、住民は各市町村のルールに従って一般廃棄物の処理に協力する義務があります。
一方で、産業廃棄物の処理責任は、原則、廃棄物を出した事業者にあります。
その為、職場の事業活動で出た廃棄物を家庭に持ち帰り、一般廃棄物として処理する事は法律違反になります。
一般廃棄物と産業廃棄物は、それぞれに決められた処理責任者と処理フローによって処理されることになります。
事務系一般廃棄物
事業活動で排出される廃棄物であっても、産業廃棄物の品目に該当しないものがあります。
例えば、オフィスで出る残飯類や、ティッシュ・コピー用紙などの紙くず、事務所周りの雑草や枯葉などが考えられます。
これらは法律上の区分としては一般廃棄物に該当しますが、家庭で出る一般廃棄物と区別する為、「事業系一般廃棄物」と呼ばれます。
事業系一般廃棄物は、原則、排出事業者に処理責任があるため、自ら各市町村の定める処理施設に持ち込むか、市町村が許可した一般廃棄物収集運搬業者に依頼する必要があります。
当然、事務系一般廃棄物を産業廃棄物として処理する事は(産業廃棄物処理業者へ委託など)は法律違法となります。
廃棄物の分類(図解)
ここまで説明した内容を図解すると以下のようになります。
廃棄物は大きく産業廃棄物と一般廃棄物に区分され、建設廃棄物はそのどちらも包括した概念になります。
建設工事における産業廃棄物の扱い
建設工事の現場で産業廃棄物が発生した場合、その現場の元請業者が排出事業者として、処理責任を負う事になります。
つまり元請業者が産業廃棄物を適切に処理する責任があるという事です。
しかし、産業廃棄物の適切な運搬や処分を行うには、大規模な設備や施設が必要な場合もあり、自社で廃棄物の最終処分までできる建設業者は多くありません。
また現場が複数ある工事の場合、各現場で出た産業廃棄物の運搬を全て元請業者が行う事も、負担が大きく現実的ではありません。
そこで多くの建設工事では、排出される産業廃棄物の運搬を工事に参加する下請け会社が、また廃棄物の処理は最終処分業者が、それぞれ元請業者が委託を受けて行うケースが一般的です。
産業廃棄物を扱う業者に求められる許可
以下のようなケースにおいて、元請業者から委託を受けて、建設工事で出た産業廃棄物を扱う業者は、以下の許可業者である事が求められます。
現場で出た産業廃棄物を運搬する下請け業者
・産業廃棄物収集運搬業
・特別管理産業廃棄物収集運搬業
現場で出た産業廃棄物を処理する最終処分業者
・産業廃棄物処分業
・特別管理産業廃棄物処分業
無許可で産業廃棄物の運搬や処分を行った場合、元請業者と下請け業者(処分業者)の両方が罰則の対象となります。
現場での産業廃棄物の分別と保管
産業廃棄物を適切に処理する為には、現場での分別と保管が欠かせません。
分別・保管基準は法令で決められており、元請業者(排出事業者)はもちろん、現場で産業廃棄物を保管する下請け業者も基準を遵守する義務があります。
特に産業廃棄物は、その品目に応じて最終的に3種類の処分場に振り分けられて処理されます。
その為、搬入する処分場に応じた分別・保管を厳密に行う義務が課せられます。
産業廃棄物の最終処分場
産業廃棄物は以下の3つの最終処分場のいずれかで埋立処理されます。
中でも安定型最終処分場で処理される産業廃棄物(安定型産業廃棄物)については、他の2つの処分場で処理される廃棄物と付着混入しないよう、現場での厳密な分別・保管が求められます。
まとめ
以上、建設工事における産業廃棄物について紹介しました。
産業廃棄物の定義や扱いを正しく理解する事で、工事現場での廃棄物の扱いで、法令違反をしてしまうリスクを防ぐことが出来ます。
特に建設工事の現場では多種多様な産業廃棄物が排出されますので、産業廃棄物の品目ごとの扱い方もしっかりと理解しておくことが重要です。
・安定型最終処分場
・管理型最終処分場
・遮断型最終処分場